ふしぎーく!

博物館のカエルが語る、民俗系よもやま話

タイガで見つけた謎の神様

 201x年9月。デンカは極東ロシアにある少数民族の村、クラスヌイヤールにおりました。人口はわずか600人。

いったいどんな場所なのか、吉幾三に歌ってもらうと、

 

「♪水道も無え、下水も無え、自動車もそれほど走って無え、街灯も無え、スーパーも無え、野良牛毎日ぐーるぐる」

 

という世界です。

あと、森からたまにアムールトラがやって来て飼い犬を攫っていく

 

ひとことで言えば大森林の小さな村。ローラ・インガルス・ワイルダーもびっくりの場所です。

でも、デンカはそんな村にとてつもない魅力を感じてしまったのです。

それはなぜか?

簡単に言えば、黒澤明の映画のせいです。『七人の侍』も『隠し砦の三悪人』もいいけれど、私が好きなのは史実を元にした『デルス・ウザーラ』

1900年代初め、極東ロシアを探検することになった軍人、アルセニエフは深いタイガの中でデルス・ウザーラという少数民族に出会います。デルスはサバイバル能力に長け、物質文明に対していろいろ考えさせる発言もします。

要は、見た目はただのおじさんなのにかっこいいんですよ! あと、デルスとアルセニエフの男の友情もいい!

 

……というわけで、完全にデルスに酔ってしまった私はDVDを見終わった瞬間「タイガに行かねば!」というわけのわからない使命感に燃えてしまったのでした。

(余談ですが、『テルマエ・ロマエ』で有名なヤマザキマリさんの息子さんは「デルス」。この『デルス・ウザーラ』から取られたそうです)

 

クラスヌイヤール村はここ! 

 

近くて遠い国、ロシア。

というわけで、日本との位置関係を確認します。タイガの中にポツンと存在する村、クラヌスイヤールはグーグルマップで検索しても出てきませんでした(涙)。なので、自力で探し出してポイント。

 

 

意外と日本に近い! ……地図の上ではw

アムール河の支流、ビキン川沿いにあり、クラスヌイヤールは「赤い断崖」の意味だそうです。

 住んでいるのはウデヘ人。デルス・ウザーラはウデヘだったとも、別の少数民族、ナナイだったとも言われています。

 

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※20世紀初めのウデヘの家族(ウィキメディアより パブリック・ドメイン

 

本州、特に関東以西に住んでると北方少数民族ってピンと来ないんですが、北海道、樺太、それから極東ロシアには少数民族 がたくさんいるんです。日本だとアイヌとかウィルタが有名ですよね。

 

というわけで、成田から3時間あまりでハバロフスクにたどり着き、そこから舗装のない道を車で9時間かけてクラスヌイヤール村へ。さらにビキン川をボートで4時間くらい上った場所(遠すぎる!w)に、このブログのタイトルにある、「現地人も正体を知らない謎の神様」が祀られていました。

 

謎の神様を見に行こう!

 

ウデヘの村の人に、「川の神様、見たい?」と聞かれ、「もっちろん!」と飛びついたデンカ。

――だが待てよ?

ボートに乗って川を上りながら考えました。

事前に調べた話では、「ウデヘはアニミズム(精霊崇拝)」と聞いていたんです。要は、万物には霊魂が宿っているというアレですね。

特定の神様を崇拝しているとは考えられなかったので、さらに突っ込んで聞いてみると、100年ほど昔、このあたりに進出してきた中国人(漢民族)が崇めていたものだそうです。

実は極東ロシアって人種のるつぼなんです。いくつかの北方少数民族に漢民族、朝鮮人、ロシア人が入り乱れていて文化的に非常におもしろいです。

 

……そうこうするうち、ボートは問題の場所に到着しました。ビキン川にしては珍しい断崖です。ここに例の神様が祀られているというのですが……

 

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……おわかりいただけただろうか?(いきなり心霊ビデオのノリw)

わかりやすくポイントしたのがこちら↓

 

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青い色をした鳥の巣箱のようなもの、あれが神様の祠です。

不謹慎な私は怒られるかな~と思いつつ、「中に何か入ってるんですか!?」と聞いてみたところ、「いや、開けてみたけど空だった」という勇者な答えをいただきました。

そっかー、開けてみたのかー。小学生のときお守りの中身がどうしても知りたくて分解しちゃった私といい勝負だわー。

 

ここに神様が祀られた理由

 

先ほども言いましたが、この断崖、両端が森林地帯のビキン川ではすごく珍しいです。

つまりこのあたりは川の流れが速く、事故も多い。そこで神様を祀り、我が身の安全と豊漁を祈ったのが始まりとか。

なるほど、よく見るとお供え物がたくさんあります。

 

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豊漁を祈ってか、ルアーの類が多い。ペットボトル(飲料)をお供えするのもなんとなくわかるとして、ポーチとネックレスはちょっと珍しい感じ。ていうか、よくあんな高いところにネックレスとポーチ掛けたな~。

 

して、この神様の正体は?

 

ウデヘの人に神様の名前を聞いたところ、「ローヤートゥ」と教えてくれました。おそらく中国語で、どんな神様かわからないとか。

こうなったら自分で調べてやる! これでも第二外国語は中国語だ!(成績はヘボヘボだったけど!)

というわけで、以下は私の推測です。

 

まずは「ロー」。

最初耳にしたとき、この「ロー」は「ラオ(老)」が訛ったものでは? と思いました。イメージ的には老獪、もしくは経験豊富なお年寄りの尊称。

次は「ヤートゥ」。

この音、どこかで聞いたことあるなと思ったら、中国育ちの作家でノーベル文学賞を取ったパール・バックの作品、『大地』に丫頭(ヤートウ・アルファベットのYではなく、漢字の丫)というのが出てくるのを思い出しました。意味は女の子。

じゃあ、ふたつ合わせて老いた女の子……???

意味わからん。

あ、でも待てよ? お供えにポーチやネックレスがあったのは、何が祀られているのかわからないながらも、神様の性別は女だってわかってたからじゃないの?

とにかくうだうだ考えていても答えは出ません。ダメ元で中国語事典を引いたところ……うそっ、あったっ!?

 

いきなりの大当たり! これしか考えられない!

 

事典を引いてみたところ、そのものずばりの「老丫頭(ラオヤートウ)」という言葉が載っていました。

意味は「末の娘(愛称)」。親が老いてからできた子=末っ子ってことらしい。

つまり、断崖に祀られているのはなにがしかの末娘! 中国には〇〇娘娘(にゃんにゃん)という女性の神様が多く祀られています。

一番有名なのが媽祖(まそ)で、航海・漁業の神

……て、これちょっともしかするともしかするっ!?

さらに媽祖を調べてみると、元は福建省の官吏の娘だったとか。16歳で神通力を得、数々の奇跡を起こしたそうです。

……そうか、福建……。ずいぶん南のほうだなぁ。ちょっと遠いし無理かな……と思いきや、その信仰は遠く瀋陽(中国東北部)にまで及んでいるとか! 沿岸部の港町では廟が建てられ盛んに祀られているようです。

しかもこの媽祖、なんと七女。この下にさらに妹がいるのかわからなかったのですが、末娘ってことも十分ありえそう

 

――結論。「ローヤートゥ」は「媽祖」!

 

日本人も神様を愛称で呼ぶことってありますよね。弘法大師空海をお大師さん、とか。そういうノリでの「末っ子ちゃん」なのではないでしょうか?

中国からやって来た、美少女(←願望)の末っ子女神ちゃんなんて素敵だなぁ……♡

自分を祀ってくれた人々が去ったあとも、現地の人を守り続ける女神様。ちょっと胸が熱くなりました。